障がい者雇用のメリットは? 進め方や助成金についても解説
障がい者の雇用は企業にさまざまなメリットをもたらします。ただし、採用する際の注意点や、業務上で配慮すべき内容などについて、事前に理解しておくことが重要です。
本記事では、障がい者雇用が企業や障がい者本人にもたらすメリット、利用できる助成金、採用から定着までのプロセスや注意点などについて解説します。
障がい者雇用を支援する公的機関や民間企業についても紹介します。
障がい者雇用をめぐる現状
厚生労働省が2023 年12 月に公表した「令和5 年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、障がい者(身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者)を雇用している民間企業の状況は以下の通りです。
・民間企業( ※1)の雇用障がい者数は64 万2,178 人(前年比4.6%増加)
・実雇用率2.33%(前年比0.08 ポイント上昇)
・法定雇用率達成企業は50.1%(前年比1.8 ポイント上昇)
( ※1)従業員数43.5 人以上、法定雇用率2.3%(当時)を達成している企業
障がい者雇用が増加傾向を示している背景には、障害者雇用促進法が義務付ける法定雇用率が従来の2.2%から2021 年3 月に2.3%に引き上げられたことがあると考えられています。障がい者雇用の環境を整備し、雇用を促進するために、厚生労働省では同法にもとづいて企業への助成金制度や相談窓口の設置などを行っています。
参照:「令和5 年 障害者雇用状況の集計結果」 |厚生労働省
障がい者雇用義務について
上述した通り、民間企業では従業員の一定割合以上を障がい者が占めなければならないと義務付けられています。この法定雇用率は2024 年(令和6 年)4 月から2 段階で引き上げられることが決まっており、従業員が40 人以上いる民間企業では2024 年4 月から2026 年(令和8 年)6 月までは2.5%、2026 年7 月以降は2.7%です。法定雇用率は民間企業だけでなく、国、地方自治体や都道府県等の教育委員会に対しても定められています。
法定雇用率を達成した企業には、施設整備費用等の助成金が支給されるほか、雇用状況や雇用人数によっては調整金、報奨金、特例給付金が支給されます。さらに助成金を固定資産の取得や改良に使った場合には法人税・所得税の非課税措置が取られるなど、優遇されています。
一方、法定雇用率を達成していない場合、従業員数が100 人超の企業は、不足する障がい者雇用数1 人あたり月額5 万円の納付金を支払わなければなりません。さらにハローワークから雇用計画書の作成命令や雇用促進に向けた行政指導などが行われ、それでも改善しない場合には企業名が公表されることもあります。
法定雇用率を満たすためには、IT・テクノロジーを活用し、障がい者が働きやすい職場環境を整備することが求められます。例えば、自宅やサテライトオフィスでのテレワークによる就業可で採用すれば、障がい者にとっても働きやすいうえに、雇用率の上昇が期待できます。
参照:障害者雇用納付金制度の概要|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
参照:障害者を多数雇用する事業主の方へ税制優遇制度のご案内 |厚生労働省
障がい者を雇用する企業側のメリット
障がい者の方を雇用することは企業側に、
・企業イメージの向上につながる
・多様性ある組織と安全な職場環境が創出できる
・フローの見直しによって業務効率化が図れる
・人材不足解消につながる
・税制優遇措置と助成金が活用できる
といったメリットをもたらします。
企業イメージの向上につながる
障がい者雇用は、企業が社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たしていると認識されます。障がい者の方が社会で働ける場所を提供している企業として企業価値が向上し、顧客や取引先、消費者からの信頼感も高まることが期待されます。広い意味での社会貢献活動にあたり、イメージアップにもつながります。
多様性ある組織と安全な職場環境が創出できる
障がい者雇用を進めるにあたっては、それぞれの障がいの特性に配慮した職場作りが欠かせません。このことは結果的にすべての従業員にとって働きやすい職場環境を創出することにもなります。すべての従業員が働きやすい職場であれば、人材定着にもつながるはずです。さらに従業員がさまざまなバックグラウンドをもっていることによって、従来では考えられなかったようなアプローチで課題解決を図れるようにもなります。
フローの見直しによって業務効率化が図れる
障がい者雇用をする際には、それぞれの障がいの特性に適した業務が割り当てられるよう配慮することが望まれます。そのためには現状での業務フローを可能な限り細分化し、障がい者に適した業務を切り出す作業が必要です。業務フローを可視化する過程で現状のフローそのものを見直す機会が増え、非効率あるいは無駄な作業を洗い出すことによって、業務フローの改善や効率化を図ることができ、職場全体の業務効率向上にもつながります。従来は顕在化していなかった課題も、新しい視点で検討し直すことによって、新たに認識されるようになるばかりか、斬新な業務改善提案も生まれやすくなります。
人材不足解消につながる
例えば、これまでは障がい者の雇用にあまり積極的ではなかった企業が障がい者を多く雇用することになれば、雇用対象が増えることになり、人材不足の解消にもつながります。障がい者も多様なスキルや視点をもつ貴重な人材であり、かつ企業の持続的な成長を支えてくれる重要な人材です。わが国では、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少が叫ばれて久しくなりますが、障がい者雇用は労働力不足を解消するための欠かせない施策のひとつです。
税制優遇措置と助成金が活用できる
先に少し触れましたが、法定雇用率を達成した企業、障がい者を多く雇用する企業には、税制上の優遇措置が取られ、助成金が支給されます。助成金は、障がい者雇用にともなう設備投資や人件費の補助などの名目で支給されるため、事業所内に新たな設備を設置しなければならない場合であっても、助成金で一部または全部をまかなうことが可能です。税制優遇措置と助成金について詳しくは後述します。
障がい者雇用枠で働く人へのメリット
障がい者雇用枠で入社した場合には、障がいに対する配慮や、一般枠で雇用されている従業員からの理解を得られやすいということが大きなメリットです。周囲からの理解が得られれば障がい者の方にとって働きやすく、長期的に継続して就業する可能性が高まります。そのほかにも、
・バリアフリーな環境で働ける
・特性に適した業務が割り当てられる
・勤務時間の調整に応じてもらえる
・体調不良などへの理解が得られやすい
・通院日に時短勤務や休暇を取得しやすい
・業務での困りごとなどを相談しやすい
・応募枠に対して募集が少なく競争率が低い傾向がある
といったメリットが考えられます。
障がい者雇用の進め方
企業が障がい者雇用を進めるにあたっては、事前にいくつかの準備を行っておく必要があります。
採用プロセスの見直し
障がい者雇用をするにあたって、まず企業が行わなければならないのが、障がい者の方が応募しやすい採用プロセスを整備することです。これまでの採用基準を見直し、多様な人材が活躍できるようにする必要があります。
面接時や選考時に適切な配慮を行うことはもちろん、障がい者の方の能力を正しく評価できるよう、新たな評価基準を設ける必要性が出てくるかもしれません。面接時などの「障がい者に対する適切な配慮」として、以下のような例が挙げられます。
・廊下や面接会場に、移動するのに障害となるようなものは置かない
・トイレ休憩の時間を長くする
・面接官は、はっきり聞き取れたり、読唇できたりするよう、気をつける
・試験には、音声読み上げツール、点字、IT・テクノロジーツールなどを活用する
研修とサポート体制の整備
障がい者の方が入社することが決定した場合には、研修やサポート体制の整備も忘れてはいけません。障がいの特性にも対応した研修プログラムを導入することが効果的です。さらに業務に適応できるよう、周囲の従業員や総務担当などが定期的にサポートすることも重要です。具体的にはメンターを割り当てたうえで、OJT を実施します。OJT は職場適応援助者(ジョブコーチ)を中心に実施する企業もあります。障害者職業センターなどの支援機関に相談すれば、ジョブコーチを派遣してもらえます。ジョブコーチについて詳しくは後述します。社内での理解を深めるためには、全社員に向けて、障がい者とともに働くことの研修を実施することも効果的です。
障がい者に適した職場環境の構築
障がい者の方に適した職場環境の構築に必要なことは、以下が挙げられます。
・事業所をバリアフリーにする
・スクリーンリーダー、音声入力システム、コミュニケーションアプリなどを導入する
・業務内容や業務フローを見直し、障がい者が能力を最大限に活かせるようにする
・全社研修を1 回ではなく、定期的に何度も行う
・日々の不安や困りごとなどを相談できる人(上司など)を配置する
どのような施策を実施するにしても、障がい者の方にとって安心して働ける環境作りをすることが重要です。
定期的なフォローアップと評価
定期的に面談を実施して、障がい者の方をフォローアップし、業務の進捗や成果に対して適切な評価を行います。面談では「業務は適切か」「困りごとはないか」「体調に問題はないか」などを本人に直接、確認し、問題があれば、速やかにフォローアップをしていくことが重要です。評価に関しては、評価軸を明確にしたうえで、目標値などを設定して、定期的に見直しを行います。評価軸が不明確だったり、業務の目的が曖昧だったりすると、業務に対するモチベーションが低下し、離職につながってしまう可能性もあります。給与や等級制度などを含め、キャリアパスを明示することも重要です。
障がい者雇用を進める際のよくある課題
総務・人事に特化した月刊専門誌『月刊総務』が2023 年に行った調査結果では、障がい者雇用をしている企業が感じている課題として1 位になったのが「業務の切り出し」でした。回答企業の68.2%が課題であると答えています。2 位は63.6%の「適性・能力が発揮できる仕事への配置」、3 位は57.6%の「従業員の障がいへの理解」でした(有効回答企業数66)。その他の課題としては、バリアフリー等の整備、職場でのコミュニケーションなどが挙げられています。
企業が障がい者雇用を進める際に活用できる助成金や支援制度
障がい者雇用を進める企業に対しては、助成金が支給されたり、支援制度が設けられたりしています。
主な助成金
障がい者雇用の助成金には、
・トライアル雇用助成金
・特定求職者雇用開発助成金
・障害者雇用相談援助助成金
などがあり、それぞれ要件などが異なります。
トライアル雇用助成金
雇い入れたい人材をトライアル雇用して適性を見極めたい場合、要件を満たすとトライアル中の賃金や研修費用が支給されます。初めて精神障がい者を雇用した場合、月額8万円の助成金を最大6か月間受けることができます(精神障がい者のトライアル雇用期間は最大12か月までで設定できますが、助成金の支給は6か月までです)。そのほかの障がいの場合には、月額4万円が最大3か月間支給されます。
参照:障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース|厚生労働省
特定求職者雇用開発助成金
障がい者を含む、就職が困難な求職者をハローワーク(公共職業安定所)などから雇用する企業に対して支給されるのが特定求職者雇用開発助成金です。雇用開始後の一定期間、賃金の一部が助成されます。支給額や期間は対象となる求職者や企業の規模によって異なります。詳しくは、都道府県労働局、ハローワーク、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に問い合わせてください。
障害者雇用相談援助助成金
認定事業者に対して、障がい者の雇用などについて支援対象事業者(障がい者雇用を行う企業)が相談などを行った場合、認定事業者に支給される助成金です。詳しくは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部に問い合わせください。
事業主の方のための雇用関係助成金・障がい者が働き続けられるよう支援する助成金
こちらの制度には多岐にわたる助成金制度が用意されています。厚生労働省のサイトで検索できるため、ぜひ確認してみてください。
税制優遇制度
各種助成金に加え、税制優遇措置も受けられます。
・助成金の非課税措置
指定の助成金を使って固定資産の取得や改良をした場合、助成金に対する法人税・所得税を不算入(非課税として処理)にできる制度です。措置を受けるための要件について詳しくはハローワークに問い合わせてください。
・事業所税の軽減措置
事業所税の軽減措置には「資産割」と「従業員割」とがあります。資産割は、要件を満たすと事業所床面積の2 分の1 にあたる事業所税が控除される制度です。従業員割では、障がい者の給与を控除できます。詳しくはハローワークでご確認ください。
参照:障害者雇用のご案内:障害者雇用に関する税制優遇制度(21ページ)|厚生労働省
主な支援制度や専門機関
障がい者雇用を進めるにあたって利用できる支援制度および専門機関としては、
・職場適応援助者(ジョブコーチ)
・地域障害者職業センター
・障害者雇用促進センター
などがあります。
職場適応援助者(ジョブコーチ)
ジョブコーチとは、障がい者の方と企業との双方に聞き取りを行い、円滑に業務を行えるように調整する人のことです。ジョブコーチの活用に対する助成金もあります。
ジョブコーチには地域障害者職業センターに所属するジョブコーチが各事業所に赴いて支援する「配置型」、社会福祉法人等に所属するジョブコーチが赴く「訪問型」、自社でジョブコーチを育て雇用する「企業在籍型」があります。支援が必要な場合の窓口として、それぞれの地域障害者職業センターが対応しています。
地域障害者職業センター
全国で障がい者の職業訓練や就労支援を行っている機関です。各都道府県に設置されおり、企業に対しては、障がい者雇用に関する相談やジョブコーチ派遣を含む支援を行っています。
障害者雇用促進センター
障害者雇用促進センターも各都道府県に設置されています。企業向けの支援内容としては、例えば、
・障がい者雇用に関する講座やセミナー開催
・障がい者雇用の相談や情報提供
・職場実習の支援
・採用活動の支援
・職場環境の整備
といったものがあります。
障がい者雇用のサポートに特化した民間企業もあり、採用から定着支援まで、包括的な支援が受けられます。法令遵守、障がい者に適した業務の切り出しなどの相談にも応じてくれます。
まとめ
障がい者雇用に積極的な企業は企業の価値が高まり、イメージアップにもつながります。ほかにも、助成金を受け取れるなどのメリットがあります。まずは、法定雇用率を達成できるよう取り組みましょう。
障がい者の雇用にあたっては、支援機関や障がい者雇用のサポートに特化した民間企業のサービスを利用することをおすすめします。例えばサンクスラボ株式会社では、法定雇用率達成へのアドバイスや、職業訓練を行った障がい者の紹介などを行っています。サンクスラボを通じて採用した場合、障がい者の方はサンクスラボのオフィスからテレワークを行い、サンクスラボの専門スタッフによる業務指導やケアが継続されるため、職場定着率は99%超となっています。障がい者の雇用・管理に悩まれる企業はぜひ活用をご検討ください。
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